「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追ってきた」川端康成氏の名作で何度も映画化された「伊豆の踊子」の書き出しです。伊豆の踊子の宿「福田家」に宿泊したので、踊子にならって「旧天城トンネル」を抜けて「天城越え」をしてみました。と言っても車で行ったし、踊子のルートとは逆方向ではありますが。このルートには石川さゆりの「天城越え」にも登場する浄蓮の滝や河津七滝などの観光スポットがあるので、併せてご紹介します。
美しき「天城トンネル」
このルートの最大のハイライトは 「旧天城トンネル」。他にも浄蓮の滝や河津七滝があるのに、トンネルを最大のハイライトと言ってしまうのは、私の趣味趣向が反映されているからなのですが、昔のトンネルって本当に美しいと思うのです。どうです、このたたずまい。反対側の坑口が遠くに見える真っ直ぐなトンネル。
旧天城トンネルは、修善寺から湯ヶ島を通り、下田へ抜ける下田街道沿いにあります。この苔むしたトンネルは伊豆の踊子の時代には旅人が通り、その後バスも通った街道でした。幅が狭くて車のすれ違いはできないので、現代にこのトンネルを使うのは難しく、現在は新天城トンネルを通る国道414号線が修善寺から下田に向かうメインルートです。でもね、この天城トンネルがある道路の入り口には旧道414号線という標識もあるのです。旧道を示す標識ってあまり見たことないのですが、これは観光用かしら?(地図のA地点)
Googleマップで見ると、こんなルートです。Aから入ってBへ抜けました。②が下田側の坑口、③が修善寺側の坑口です。
「伊豆の踊子」は徒歩でこの街道を抜けましたが、私は車で抜けました。また踊り子は修善寺側(トンネルの北側)から下田側(トンネルの南側)に向けて越えましたが、私は逆方向で越えました。未舗装ですれ違いできない区間も多く、曲がりくねっていて、ラリーレースに良さそうな道路が続きます。本当にここを昔はバスが通っていたのでしょうか。すごすぎます。「伊豆の踊子」の中で、川端康成氏はこの道の状況を「トンネルの出口から白塗りのさくに片側を縫われた峠道が稲妻のように流れていた」と表現していますが、本当に稲妻のような道です。
下田側から旧道を走ると、入口(地図A地点)からトンネルまでは結構な距離があります。歩いて行けないこともないけれど、1時間以上かかりそう。途中上から歩いて下りてくる人とすれ違いましたが、あの人たちはどこから来てどこへ行くのだろう・・・とちょっと心配になりました。こんな道を上り続けていくと、トンネルに到着します。トンネルの手前に車が3~5台程度おける場所がありました。(地図の②の地点) 歩くのなら、B地点側から上った方が近そうです。徒歩30分くらいでつけるのではないかと思います。
旧天城トンネルは道路のトンネルとしては全国で初めて登録文化財の指定を受けました。その碑が下田側の坑口付近にあります。
明治33年に着工し、完成は明治37年。12人の尊い犠牲を払ったとのこと。全長は約445.5m、幅は4.1mです。車の通行は可能ですが、中ですれ違うことはできないので、車でトンネルを抜ける時には、反対側から車が来ないことを確認してから通行しましょう。真っ直ぐなトンネルなので、ライトをつけていれば反対側の車から認識してもらえます。近づいてみると、石積みの坑口がなんとも言えない美しさ。
坑口の上には扁額があり、「天城山隧道」と書かれています。
下田側から修善寺側に車で抜けました。ライトに浮かび上がる石の側壁も美しい。
修善寺側にも車を停められる場所があり、トイレもありました。(地図の③)
修善寺側の坑口周辺も苔がむして、タイムスリップしたみたい。
石巻という、石を積み上げていく方法でトンネル内部も仕上げられています。日本に現存する石造り道路トンネルの中でも、最大長を有するトンネルなのだそうです。
きれいに積み上げられている石。昔の人の技術はすごいなー。
内部もとても美しいトンネル。
鉄道トンネルではないですが、石積みのトンネルはやっぱり美しい。トンネル内のちょっと湿ったような、けれど凜とした空気がたまりませんねー。
浄蓮の滝
「天城越え」と言えば石川さゆりさんの「天城越え」を思い出す方も多いのでは?その歌の歌詞に登場する「浄蓮の滝」は国道414号線沿いにあります。「浄蓮の滝」にも寄ってみました。
無料の駐車場があるので車を停めて、こんな伊豆の踊子の像が立っているところから、滝つぼに降りる階段を下っていきます。
案内に従って進みます。
階段の上り下りがダメな方も、このあたりから滝を見ることはできます。
長い長い階段を下りて行きます。帰りはこの階段を上らないとならないと思うと、ちょっとビビるけど、思っていたほどは長くありのませんでした。たぶん鳴子峡の方が歩く距離も高低差もありました。
じゃじゃじゃじゃーん、これが石川さゆりの「天城越え」にも登場した「浄蓮の滝」です。マイナスイオンたっぶりな感じがします。
2018年5月に放送された「ブラタモリ」でタモリさんもここを訪れています。その際にタモリさんが注目したのは、柱状節理の岩肌。溶岩が冷えて固まる時にできる見事な柱状節理が滝の右下部分の岩肌に見えています。
滝つぼ近くには、ちゃんと「天城越え」の歌詞の碑もあります。でも竜飛崎のようにボタン押すと歌が流れる、という仕掛けはありません。
伊豆と言えば、わさびが有名ですね。豊富で澄んだ水が流れるこの地域の名産品です。浄蓮の滝の周辺にも、わさび田があり、お土産で生わさびが販売されていました。
売店は16:30には閉まってしまうけど、生わさびやわさびをつかった食べ物を売っています。
訪問したのは3月末でしたが、わさびの花を見ることができました。
なかなか可憐な花です。
河津七滝(かわづななだる) 最初の5滝
修善寺から国道414号線を通って下田方面に抜けるルート沿いにはもう一つ有名な滝があります。もう一つと言うのが正しいのか、もう七つというのが正しいのかわかりませんが、七つの滝が点在する場所をまとめて「河津七滝(ななだる)」と呼んでいます。河津七滝への入り口は、ループ橋です。修善寺側からアクセスするなら、ループ橋を下りたところを左折、下田側から登って行く時には、ループ橋の手前を右折して河津七滝へ向かいます。無料の駐車場がありますが、お昼くらいには満車になってました。バスも駐車場まで入ってくれます。
駐車場のあたりは、上流側に5つの滝。駐車場のすぐ近くに一つ、もう少し下流には大滝(おおだる)という滝があり、どこから回るかちと悩みますが、私はまず上流側から回ることにしました。この橋のたもとからスタートです。
まずは「カニ滝」。落差はないけれど、水の白い流れが美しい滝です。この川の名前は「本谷川」と言います。
七滝にかけたのか、七福神がいらっしゃいました。
整備された遊歩道を上っていくと何やら白い人影が。
踊子の像でした。この像の前にはトイレがあります。
さらに遊歩道を上流方向に歩くと、またもや踊子の像が。こちらの像は「踊り子と私」という像です。本当にこの辺りは「伊豆の踊子」を観光に活用しているのですね。川端康成様様です^^ こちらの像の所には「初景滝」という滝があります。
滝のほとりには、名水処があり、清水を飲むこともできます。
さて、ここまでなだらかだった遊歩道も、ここからがのぼりの難所です。いきなりこの階段。
階段の踊り場から振り返って眺めた「踊り子と私」の像と「初景滝」。
階段の遊歩道を上り、次の滝は「蛇滝」。滝の周りの玄武岩が蛇のウロコに似ているところからついた名前のようです。
ウロコのように見えるのは、柱状節理のようですね。
蛇滝からの遊歩道は階段状の吊り橋です。長さは46mと結構長い。「片塔式ウェーブ橋」というんだそうです。
橋を渡った所から橋を見てみると、こんな橋です。なかなかすごい橋をかけたものです。いつできたのでしょう?
橋を渡って次の滝は「エビ滝」。滝の流れがエビの尾びれに似ていることからついた名前だそうです。
さらに急な階段を上ります。結構息があがってきました。
遊歩道を歩くと、一番上流側にある「釜滝」です。落差が22mあって、ここまでの滝の中では一番大きい。
上の「釜滝」の写真では、右手に木でできた展望デッキがあるのがわかります。吊り橋を渡って展望デッキに向かいます。
展望デッキからの「釜滝」。
ここで注目したいのは滝だけではありません。ここでも見事な柱状節理を見ることができました。タモリさんが見たら興奮しそうです。
さて、滝はここが一番上流ですが、遊歩道はさらに続きます。この先に「猿田淵」という場所があるのでそこまで行ってみることにしました。こんな階段を上るとなると、めげそうになりますが、上から下ってきて帰りにこの階段上るよりは、下から上って行き、帰りにこの階段を下りる方が気分的には楽です。
だいぶ足がだるいですが、がんばりましょう。
こちらが「猿田淵」。太陽光があたって、写真よりもっと美しい淵ですが、私の腕ではこの程度の写真しか撮れないのが残念。駐車場からここまで写真を撮りつつあるいて約40分。ここで引き返しました。
帰りは下りで、いくぶん楽ちんですが、すでに足がパンパンなので、思わぬねんざなどしないように気を付けて下りましょう。
帰りは30分くらいで降りてこれました。残り二つの滝は、休憩後に行くことにしましょう。
竹林のレストラン「ひぐらし」
たくさん歩いたので休憩しましょう。「カニ滝」のほとりにレストラン「ひぐらし」の看板が出ていました。
竹林の中にあるレストランて、ちょっと素敵な雰囲気なので、階段を上って向かいました。入口の脇にはまきがたくさん積んでありました。
引き戸を開けて店内に入ると、靴を脱いであがる形式。階段の上に案内されました。
なんか古風な店内です。
案内されたのは屋根裏みたいな場所で、なかなか趣がありますね。
店内からは竹林の様子が見えました。
カフェメニュー。「みかぽん」という甘夏とポンカンのジュースが美味しそうなので、私は「みかぽん」を注文。
お食事メニューもいろいろありました。
この時期らしく、竹の子のメニューもありました。早くできる、というので竹の子のお刺身も注文。
竹の子のお刺身はわさび醤油でいただきます。
私が注文した「みかぽん」。生絞りジュース感があって美味しそう。
河津七滝 残り2つの滝
休憩したら、七滝の残り2つの滝を見に行きましょう。まずは「出合茶屋」前の階段を下りて行った先にある「出合滝」。
この「出合滝」は、本谷川と荻野入川の合流地点にある川なので、「出合滝」という名前がついているのでしょう。なので滝は2つあるのですが、一度に両方の滝を撮影することはできませんでした。
ここは河津川の起点にもなっています。この川が「伊豆の踊子」の舞台となった湯ヶ野温泉の「福田家」の前に流れていくのですね。
「出合滝」の流れはこの先7つ目の滝である「大滝」へつながっています。
「出合滝」から直接「大滝」へは行けず、一度元の道路にのぼって、大滝の入口へ向かいます。こちらが「大滝」への入り口。
大滝へも長い下り坂を下りて行きます。つまり帰りは上り坂になりますね。
「大滝」が見えました。落差が30mあり、「河津七滝」の中では最も大きな滝です。
大滝は残念ながら滝つぼまで行けないんです(昔は行けたような記憶もあるのですが)。ここから先は「天城荘」の敷地になっていて、滝つぼの近くには、水着着用のようですが、滝を見ながら入れる露天風呂もあります。「天城荘」のサイトをみたら、金曜日の夜なら一人でも泊めてくれそうなので、今度行ってみようかな。
これで河津七滝、すべてを回りました。もう50年以上静岡県に住んでいるのに、七滝全部回ったのはこれが初めてです。
まとめ
伊豆は我が家からは車でアクセスしやすい観光地ですが、わざわざ泊まるほどの距離でもないので、じっくり回ったことはあまりありませんでした。今回「福田家」に泊まり、街道沿いの観光スポットを回ると、なるほど、川端康成氏が訪れたくなったのも、観光客が来るのもわかるな~という感じでした。今回宿泊した伊豆の踊子の宿「福田家」の宿泊記はこちらです。とても良いお宿でしたよ。