四万温泉は、2018年温泉総選挙の女子旅部門で堂々の1位を獲得している温泉地。古い木造建築の宿が好きな私にとって、四万温泉の「積善館」は泊まってみたい宿の一つでした。一人旅プランもあるものの、金土日はいつ見ても一人では宿泊できるプランがないので、今回はGWを利用して2人で出かけました。建物も素晴らしいですが、お料理が素晴らしく、温泉もスタッフのサービスも行き届いていて、とても満足のできる滞在となりました。お値段は2人1部屋の1泊2食付税込で1人22,830円でした。普段泊まる宿としては少し高いですが、お値段分の満足は十分得られました。
積善館には3つの建物があり、それぞれ異なる趣です。日本最古の湯宿建築「本館」、国の登録有形文化財になっている「山荘」、鉄筋コンクリート建てで新しい「佳松亭」。今回はお料理も楽しめて、古い建築も堪能できる「山荘」に宿泊しました。
チェックイン
チェックインは「佳松亭」側のエントランスから入り、食事処でお茶を飲みながら宿帳の記載をします。
その後お部屋に案内されます。
山荘のお部屋
今回宿泊したのは「山荘」の4階にある「茜の三」というお部屋。
山荘のお部屋にはグレードがあるのですが、今回は一番お安い標準タイプのお部屋に泊まりました。本間は床の間付きの8畳で奥に縁側がついています。こたつが嬉しい。
広縁からは「積善館」のシンボルでもある赤い橋「慶雲橋」を望めます。いつも誰かが写真を撮っている観光名所の一つ。
入り口と本間の間には広い踏み込みと洗面スペース。2人には十分な広さです。
有形文化財に登録されている建物だけあって、障子や欄間などに工夫が凝らされています。このデザインは部屋ごとに違うそうです。
お部屋のカギは2本貸してもらえました。お風呂に別々に行く時にはとても助かります。最近こういう宿が増えて嬉しいです。
山荘の上級グレードのお部屋には、お風呂付お部屋や、角部屋で浮遊感を味わえるような特別客室もあり、予算が許せばこういうお部屋にも泊まってみたいです。
浴衣とアメニティ
用意されている浴衣は通常タイプ。バスタオルが一人につき2枚用意されているのはありがたいです。バスタオルもお風呂用のタオルも色違いで用意されているのも、再度使う時にどちらが自分のタオル化がわかって助かります。湯籠が一つ用意されていました。四万温泉は共同浴場もあるので、外湯に行くにも便利そう。
洗面台にはアメニティ多数。体を洗うためのボディタオル、ブラシ、シャワーキャップ、カミソリ、乳液や美容液などがあり、基礎化粧品は持参しなくても大丈夫なラインナップです。
クレンジングや乳液、美容液が用意されているのは嬉しいです。使い心地も良かったです。
部屋にドライヤーが用意されています。
部屋の設備
山荘のお部屋はどのお部屋も洗浄機能付きトイレがついています。ちなみに「本館」のお部屋にトイレはありません。
冷蔵庫は冷凍庫付きタイプで、庫内はからっぽの状態。
部屋のポットは沸かす機能が付いた電気ポットでいつでも熱いお湯を得ることができます。お茶っ葉は緑茶のみでティーバックでの提供でした。お茶っ葉の交換が楽ちんで助かります。夜は冷水のポットも用意されて、温泉に入って喉が渇いた後には冷たい水はとても体にしみますね。
お茶請けは温泉まんじゅう。大きな花豆が特徴のおまんじゅうでした。
Wi-fiとコンセント
古い趣のある建物ですが、Wi-fiも完璧。ストレスなくサクサクつながりました。
コンセントは床の間に2口が1か所。テレビとこたつ用に2口が1か所(でもここはテレビとこたつで塞がっています)。洗面所に1か所あります。
積善館は古い木造建築なので、全館禁煙です。煙草を吸う人にはちょっと泊まりづらいかもしれませんが、私のように煙草を吸わない人には快適です。
温泉
四万温泉は四万の病を癒すというのが由来とか。「積善館」の中にお風呂は貸切風呂も含めて5か所あります。どの建物に泊まってもすべてのお風呂を使うことができますが、深夜1:00~早朝5:00の間は利用できません。
泉質
積善館の源泉は「明治の湯」という自家源泉で、すべての浴室は同じ源泉からのお湯が供給されているようです。泉質はナトリウム カルシウム 塩化物 硫酸塩温泉という泉質です。他の旅館の泉質を見てみましたが、泉質には差がなさそうですが、pHや泉温には多少の違いがあるように思いました。積善館のpHは6.6で中性温泉です。他の旅館ではpH7.5で弱アルカリ性のところもありました。吾妻線沿いの温泉には有名な草津温泉がありますが、草津はかなり強い酸性の温泉。こちらは中性なので、酸性の温泉につかったあとの上がりの湯としても使われていたとか。なるほど、入ってみるとお肌に優しくストレスなく入っていられます。無味無臭無色のお湯でした。特徴がないとも言えますが、ナトリウムが含まれているせいか、入浴後はポカポカします。
温泉分析表を撮影したのですが、うまくとれず・・・。こちらの分析表は「元禄の湯」の入り口に掲示されていたものです。メタケイ酸が126mgと多めなので、美肌効果がありそうですね。泉温は67.4℃、湧出量は測定せず(自然湧出)となっています。自然湧出の源泉て、あんまり見かけないかも。
積善館のパンフレットによると、もともと積善館の前の川底から湧出する温泉が川の水と混ざることで適温のお湯となっていたそうです。現在は川底から源泉の湯のみくみ上げて、水に沈めたパイプに通して冷ました源泉と、熱い源泉を合わせることで適温とし、何も加えない温泉をかけ流しているとのこと。
それでは5か所のお風呂を回ってみましょう。
有形文化財の「元禄の湯」
「積善館」の中で最も古い「元禄の湯」は昭和5年に造られた、当時としてはとてもモダンなつくりです。本館の一階部分にあります。
アーチ形の窓からは外の光が入り、とても明るいお風呂です。この素敵な浴室は男女別にあるので、いつでも楽しめます。宿によっては歴史的な浴室は一つしかなくて、男女が時間制入れ替わり、ということがよくありますが、このお風呂にいつでも入れるのはとても嬉しいことです。写真撮影は不可なので、「積善館」のフォトギャラリーから写真をお借りしました。
タイル貼りの床に5つの石造りの浴槽が並んでいて、浴槽ごとにお湯の温度に差がありました。自分で好みの温度の湯船につかれるので、熱すぎずぬるすぎず、ゆっくりとつかっていられます。湯船の底と蛇口からは新鮮なお湯が供給されています。こちらが源泉に一番近く、宿のご主人の説明では積善館のお風呂の中で一番パワーを感じるとのこと。そう聞いて入ったせいか、確かに温泉が体に響いてくる感じがしました。供給量から察するに、こちらは循環なしの源泉かけ流しのように思います。蛇口にこびりついた成分に「元禄の湯」の歴史を感じます。
浴室内の壁には小さな引き戸が2つあります。どちらも中は「蒸し湯」、今のスチームサウナになっています。中にはタイル製の椅子のような台があり、かなり狭い空間。引き戸の横に「使用中」とか「空いています」の札がかかっています。中に入って扉を閉めると、扉の隙間から入ってくる光以外の照明はないので、暗い空間。閉所恐怖症の人には無理ですが、私は楽しませていただきました。下の写真の正面の壁にある扉が「蒸し湯」の扉です。
下の写真は積善館の当主の書斎に掲載されている蒸し湯の写真です。中にタイルの椅子が見えます。
「元禄の湯」は入り口の扉を開けると、いきなり浴室です。脱衣所と浴室に仕切りはなく、入り口の扉の両脇に脱衣かごが置いてあるので、そこで脱いだり着たりする昔ながらのスタイルでした。つまり、浴槽から出入り口方向を見ると、脱衣かごが並んでいるというレイアウトです。古い浴室という感じがします。
歴史ある古いお風呂なので、洗い場はほとんどなく、シャワーは一つついているのみ。体を洗うための入浴と言うよりは、本当に温泉につかるためのお湯です。体を洗うには、佳松亭にある「杜の湯」が新しく、洗い場もたくさんあって便利です。
杜の湯
杜の湯は露天風呂付きの内湯です。「元禄の湯」は本館にありましたが、「杜の湯」は積善館の中では最も山側に建つ「佳松亭」にあります。なので新しいお風呂ですね。
暖簾をくぐると広い脱衣場で、鍵付きの貴重品ロッカーもついていました。
こちらも写真は不可なので、積善館のフォトギャラリーから写真をお借りして掲載します。まずは内湯。かなり広い浴槽です。
内湯から直接行ける露天風呂も広い。木々の緑がとても気持ち良かったです。屋根つきの部分があるので、雨や雪でも楽しめます。また湯口に近い所は熱く、遠い所はぬるいので、自分で好みの場所を探してつかることもできました。
源泉の位置からはかなり距離があるせいか、温泉の鮮度が元禄の湯に比べると多少不足しているような気がしました。
山荘の湯(無料の貸切風呂)
私が宿泊した建物「山荘」の中にある無料の貸切風呂です。2か所あります。
予約制ではなく、空いていればいつでも使用でき、中からカギをかけて入るスタイルです。
山荘の湯は2か所ありますが、結構使用中になっていて、なかなか使用できなかったのですが、何度か通った時にちょうど前の人たちが出てきて、入ることができました。浴室内にはタイル貼りの小さな浴槽が2つ洗い場はシャワーとカランが1か所あります。
有料予約制貸切風呂積・善
新しい貸切風呂が佳松亭の庭園の中あり、「積」と「善」という2つの浴室に分かれています。
こちらは有料で1回45分 3,240円(税込)ですが、公式サイトから宿泊予約すると、こちらのお風呂を無料で使用できる特典がありました。チェックインの時にお風呂の予約をして、入る時にはフロントでカギを借りるシステムです。
その特典で四角い浴槽の「善」の方を利用させてもらいました。
こちらは丸い浴槽の「積」。どちらも石造りの浴槽で、源泉が勢いよく給湯口から注がれていました。
岩風呂
岩風呂は積善館の中では唯一の混浴風呂で本館にあります。脱衣所は男女別ですが、中で一緒になるスタイル。浴室も浴槽もそれほど大きくはないし、お湯は無色透明なので、混浴はちょっと恥ずかしいですが、そういう人のために、男性専用時間、女性専用時間が設けられています。
宿泊した時には、翌日の早朝から9時までが女性専用タイムでした。この時間帯に入ってきました。
本館から古いタイル貼りの階段を下りて岩風呂へ。昔のお風呂はこんな建物の下の方にありますね。
脱衣所は男女別々ですが、脱衣所に入る入り口は一緒なので、入口に鍵がついているんです。この鍵の暗証番号はチェックインの時に女性にだけ知らされるというシステムです。
飲泉
四万温泉は飲泉もできます。積善館の元禄の湯の入り口のところに飲泉所がありました。ちょっと塩味がします。
四万温泉のお湯は積善館だけでなく、どちらの温泉でも飲泉できるようで、温泉街の中にも何か所か飲泉所があるそうです。今回は温泉街散策に出かけなかったので、飲泉所や足湯めぐりはまた次回にしたいと思います。
食事
積善館での滞在で一番感激したのは食事です。一つ一つのお料理に工夫が凝らされ、見た目も味も素晴らしい食事でした。また食事が提供されるタイミングも良く、温かい物は温かく、冷たい物は冷たくいただけるし、サービスしてくれるスタッフがよくお料理のことを勉強していて、説明も的確で質問にも答えてくれました。そのスタッフは中国人でしたが、日本のサービスをよく理解されていると本当に感心しました。宿の良しあしはこういうサービスが大きく影響すると思います。
夕食
山荘に宿泊した人は、夕食・朝食共に食事処でいただきます。夜は外のお庭のライトアップもされていて眺めも良いですね。このお庭、私が宿泊する前日に完成したんだとか。初お披露目というところでしょうか。
この日の献立はこちら。この献立も本日からスタートの新しい献立なのだそうです。そういうことまできちんと説明してくれます。
私はお酒は飲まないので、ドリンクメニューの中においしそうなジュースがあると注文します。今回は梅ジュースをチョイス。ただ原液のままだと濃いので、何かで割ることを勧められ、ソーダ割りにしました。
アルコール類も積善館オリジナルメニューなど、いろいろありましたよ。
梅ジュースがくる前に、まずは食前酒の梅酒をいただきます。アルコールダメですが、この程度なら飲んでも大丈夫なんです。
こちらは前菜。見た目も美味しそう。
梅ジュースが来ました。炭酸を飲むと食欲が増します。
こちらは「箸染」。菜の花のムースです。菜の花をこんな風に頂くのは初めてです。とてもなめらかな口当たり。
お造りはマグロの中トロ、ハタ、ボタンエビ。お醤油がちょっと変わっていて「泡醤油」というムース状のお醤油をつけていただきます。
泡醤油は鹿児島のお醤油に卵白を混ぜ合わせた、積善館料理長のオリジナルだそうです。なめらかな口当たりで、お刺身にとても合います。
「椀盛」は木の芽の香が効いたお澄まし。
台の物は上州牛サーロインの陶板焼きです。お肉が軟らかくてとても美味しくいただきました。
この後ご飯とお味噌汁と香の物が出て、最後にデザートです。
どのお料理も本当に美しく、美味しく、とても満足しました。
朝食
朝食も種類と量が豊富な献立でした。
左上の白い物体はざる豆腐です。ポン酢でいただきました。
ご飯のほかにお粥も提供されて、昨夜食べ過ぎたおなかに優しくしみわたりました。
食後にはコーヒーが提供されるのですが、お部屋への持ち帰りカップはなかったように思います。
建物と館内
積善館は「千と千尋の神隠し」に登場する油屋のモデルになったとも言われていて、古い木造建築の本館や、川にかかる赤い橋を見ているとそうかも・・・と思えてきます。こちらのエントリは長くなってしまったので、魅力的な建物については別のエントリでご紹介します。
四万温泉へのアクセスやその他の旅館・カフェ情報
冒頭にも書いたとおり、女子旅No.1の四万温泉。積善館以外にも大小さまざまな宿があります。私が温泉旅行の参考にさせていただいている、ゆうさんのブログには、公共交通機関でのアクセスや、温泉街のカフェ、旅館情報が詳しくまとまっています。四万温泉にお出かけの際には是非参考にしましょう。
「積善館」の満足度が高い理由
「積善館」のどこが良かったか?振り返ってみました。
1) お料理が素晴らしい
見た目、味とても素晴らしく、いろいろな工夫がされたお料理でした。お料理がここまで素晴らしい温泉宿って、今まであまり経験がないです。温かい物は温かく、冷たい物を冷たい状態でいただけるのもとても良いです。どんなに素晴らしいお料理でも全部一括で運ばれてしまうと、適温で食べることができなくなってしまいます。
2) 温泉が良い
温泉宿ですから温泉に満足できるかどうかはとても重要。お湯そのものは無味無臭無色でアルカリ性でも酸性でもない「低張性中性高温湯」というお湯なので、特徴がないとも言えますが、湯あたりすることなく、また温度も熱すぎず温すぎずだし、元禄の湯は浴槽によって湯温が微妙に違うので、好みの温度で長くつかっていられます。つかった後はいつまでもポカポカする感じも良いですね。
3)スタッフにプロフェッショナル感がある
食事を持ってきてくれる中国人スタッフがきちっとネクタイをしていて、かつ、よくお料理を勉強してくれていて、説明もよどみなく、質問にも答えてくれたのがとても印象に残りました。学生のアルバイトが暗記した説明をたどたどしく説明してくれるのも初々しいけれど、お金払って旅館に泊まりに来ているこちらにとっては、積善館のスタッフにはとてもプロフェッショナル感を感じました。
4) 歴史ある木造建築が素晴らしい
徳川時代から営業している歴史ある宿なので、古い建築がそこかしこに残っています。私は木造多層階の旅館が好きなので、積善館はまさに私の好みでした。古いけれどどこも磨き上げられているし、部屋も快適に過ごせるように手が入れてあるのが素晴らしいです。
5) 鍵が2本、バスタオルも1人に2枚
鍵が2本は最近見かけるようになったサービスですね。2人で泊まった際、別行動をする時には鍵が2本あるととても助かります。お値段が高い宿でも1本しか貸してくれない旅館もまだありますからね。一方で1人で泊まっても鍵2本貸してくれる宿もあって、そちらはどうなんだろう???と思ったりもします。バスタオルが1人に2枚用意してくれてあるのも嬉しいです。何度もお風呂に入るとどうしてもバスタオルが湿ってきますし、厚い分乾きません。乾いたバスタオルが使えるのはとても嬉しいです。
6) 夜は冷水ポットのサービス
こちらも最近はよく見かけるサービスですが、サービスがない旅館もまだまだあります。食事の後やお風呂に入った後に冷たい水があるととても助かります。
7) 苦手な食材への対応
私は食べられない食材があるので、事前に宿に連絡するのですが、きちんと配慮いただきました。メニューも私専用に印刷されていました。
8) 部屋でWi-fiが使える
積善館のような古い旅館でもWi-fiが無料でサクサクつかるのには驚きました。歴史ある旅館を守りつつ、お客さんの利便性向上に努めていらっしゃるんだな、と感じました。
本当に良いお宿でした。